もみじの古木の幹に、すみれの花がひらいたのを、千重子は見つけた。
「ああ、今年も咲いた」と千重子は春のやさしさに出会った。・・・
川端 康成の小説「古都」の書き出しです。
雪国・伊豆の踊子・山の音などと共に学生時代に読んだ本の1冊ですが
その中に次のような下りがあります。
千重子は石段をのぼった.
神護寺にある、平重盛と源頼朝の肖像画、アンドレ・マルロオが世界の名画とする
肖像画、その重盛のほおかどこかに、かすかに残る赤を思い出していた・・・
高山寺では、石水院の広縁から、向かいの山の姿をながめるのが、
千重子は好きであった。開祖、明恵上人の樹上坐禅の肖像画も好きであった。
床の脇に、「鳥獣戯画」の絵巻の複製が、ひろげてあった。
千重子は父につれられて、周山まで花見に行き、つくしをつんで帰った、思い出もある。つくしは太くて長かった。そして、高雄まで来れば、一人でも、北山杉の村まで行く。
今は市に合併されて.北区中川北山町だが.百二、三十戸だから.村という方が.
ふさわしいようだ・・・
清滝川の岸に、急な山が迫って来る。
やがて美しい杉林がながめられる.じつに真直ぐにそろって立った杉で.人の心こめた
手入れが.一目でわかる.銘木の北山丸太は.この村でしか出来ない.・・・・・
いまは昔・・・
冬休みに帰省の途中、京都で途中下車し、バスに乗り換え、風花の舞う周山街道を行き、この物語の舞台の一つ「北山杉」の村を訪ねた。
谷川沿いに走るバスの窓から見ると、流れは川底の岩まで見えるほど青く澄み、
見上げると、櫛の歯のように、きれいにそろって真っ直ぐに伸びた杉山が、
目の前にせまって来た。
バスを降りると、川の向こうに「北山銘木協同組合」の看板が見え、
皮を剥かれた杉丸太が 軒下に 丁寧に揃えて立てかけられていた。
近付いて中をのぞくと、絣にあねさんかむりの女性が、台の上に乗せた
杉丸太の皮を剥ぐ作業に精を出していた。
川から採って来た川砂でこするようにし、皮を剥ぐのだそうだ。
この頃、山に植林された杉の苗は年月を経て、もう立派な木に育っていることだろう。
古都京都とはいえ、産業の近代化の波が、このような山里にもおよび、
おそらく写真のような、人手頼りの杉丸太の加工も機械化され、
こんな光景は、今はもう見ることが出来ないのかもしれない。・・・
今年も祇園祭りが近づきましたが、八坂神社の周りでは、お囃子の練習や
山車や街の飾りつけなど、祭りの準備で忙しいことでしょう。
何時の日か、もう一度訪ねてみたいと思っています。